
秋冬のマラソンシーズンがいよいよ始まり、フルマラソンに挑戦したいというランナーも増えてくる時期です。タイム更新を狙う上級者から、初めてのフルマラソン完走を目指すビギナーまで、目的に応じた練習法を取り入れることが目標達成のカギとなります。
今回の記事では、ランナーのレベルや目標に応じて効果的な3つのメジャーなランニングトレーニング法を紹介します。それぞれのメソッドは、異なるトレーニング効果とメカニズムを持っており、組み合わせることで総合的なパフォーマンスを高めることができます。
事前に決めたコースをただただいつものペースで走るだけでも決して無駄にはなりませんが、より効率的にランスキルを高めたいという方はぜひ取り入れてみましょう。
1. インターバルトレーニング
最大酸素摂取量(VO₂ max)と心肺機能を向上させるスピード強化法
概要:インターバルトレーニングは、高強度の疾走(400~800m)と回復のジョグを交互に行うトレーニング法です。このトレーニングでは疾走区間を全力の80~90%程度で走り、回復のジョグを疾走区間よりも短い距離(例:200~400m)で設定します。 回復ジョグの時は、会話ができるくらいのペース(最大心拍数の60~70%)を目安にしましょう。
効果のメカニズム:高強度で走ることで心拍数が急上昇し、体内での酸素消費量が増えます。その結果、**最大酸素摂取量(VO₂ max)**が向上し、心肺機能が強化されることが期待されます。
また、疾走中に筋肉内に蓄積される**乳酸(Lactate)**に対しても、回復区間のジョグで体が乳酸を分解・再利用することで乳酸を速やかに処理する能力が高まります。これにより、乳酸閾値(乳酸が急激に蓄積するポイント)が上昇し、長時間の高強度パフォーマンスが可能になります。
レベル別距離設定
初心者:疾走200~300m、回復ジョグ100~200m 注:初心者は疾走ペースを全力の70~80%程度から始める
中級者:疾走400~600m、回復ジョグ200~300m
上級者:疾走800~1000m、回復ジョグ400~500m
体の豆知識💡:最大酸素摂取量って何?
マラソンなどの持久系スポーツで重要な 最大酸素摂取量(VO2max)。 これは、運動中に体に取り込める酸素の最大量のことです。
VO2maxが高いほど、多くの酸素をエネルギーに変換できるので、持久力が高まります。 車で例えるなら、エンジンの性能が良いようなもの。また、VO2maxは心肺機能を測る指標の一つでもあります。 酸素を効率よく体内に送り届ける能力が高いほど、VO2maxは高くなります。ランニングのパフォーマンス向上には、VO2maxを高めるトレーニングが効果的です。
2. LSD(Long Slow Distance)
脂肪代謝を高め、持久力を向上させるロングラン
概要:LSDは、心拍数を安定させ、低強度で長時間(90分~180分)走るトレーニング法です。ペースは会話ができる程度の強度(最大心拍数の60~70%)を維持し、息切れせず、ゆっくりと一定ペースで進めることがポイントです。
効果のメカニズム:低強度の運動では、体が主に脂肪をエネルギー源として使用します。LSDを行うことで、体内の脂肪酸代謝が促進され、長時間にわたって脂肪を効率よく燃焼する能力が向上します。さらに、長時間のトレーニングは筋組織内のミトコンドリア(エネルギー生産を担う細胞小器官)の密度を増加させるため、筋肉での酸素利用効率が向上します。これにより、フルマラソン後半での疲労を軽減し、持久力を強化することができます。
レベル別距離設定:
初心者:10~15kmをゆっくりと走る 注:初心者は60分程度のLSDから始める
中級者:15~20kmのロングラン
上級者:20~30kmのロングラン
3. ペース走
レース本番に必要なペース感覚とエネルギー効率を高めるペーシング法
概要:ペース走は、フルマラソンの目標ペースを設定し、そのペースを維持しながら長距離(10~15km)を走り切るトレーニングです。実施する際には、必ず安定したペースを守ることを意識し、心拍数やピッチ(歩幅や頻度)を常に一定に保つことが重要です。
効果のメカニズム:目標ペースを維持することで、ランナーはペース感覚を習得し、一定のペースで走り続ける能力を鍛えます。また、同じペースを保つことでランニング経済性(Running Economy)が向上します。ランニング経済性とは、一定の速度で走る際に消費するエネルギーの効率を指し、これが向上すると、同じペースで走ってもエネルギーの消費が少なくなるため、長時間のペース維持が可能になります。
さらに、一定のペースで走ると中枢神経系がそのペースを基準として捉え、その速度に対する疲労感が軽減されます。この効果により、目標ペースをレース本番でも無理なく維持できるようになります。
レベル別距離設定:
初心者:5~7kmのペース走
中級者:10~12kmのペース走
上級者:15~20kmのペース走
まとめ
各トレーニング法は、特定の能力を鍛えるためのメカニズムと効果を持っています。インターバルトレーニングで心肺機能を向上させ、LSDで持久力と脂肪代謝を改善し、ペース走で目標ペースの維持能力を高めることが、マラソンにおいて理想的なバランスを実現するための鍵です。これらのトレーニングを取り入れ効率的にランスキルを高め、今シーズン、自分史上最高の結果を叩き出しましょう! 参考文献📚
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